子連れの長距離フライトで、いちばん結果を左右するもの。それは持ち物でも、おもちゃでも、機内食でもありませんでした。座席です。予約画面でシートマップを眺めている、あの数分。そこでの選択が、そのあとの10時間をまるごと決めてしまいます。
これまで、1歳から4歳になるまでの子どもを連れて、北欧、オーストラリア、ロサンゼルス、カナダといった長距離路線を何度も飛んできました。うまくいった便も、正直つらかった便もあります。今回は、その経験から見えてきた「子連れにおすすめの座席」を、年齢ごとの変化も含めてお伝えします。結論から言えば、赤ちゃんのうちはバシネット一択でした。

座席は、10時間の“住まい”になる
大人だけの旅なら、座席の良し悪しは快適さの問題で済みます。窓側で寝るか、通路側で足を伸ばすか。多少外れを引いても、映画を1本余計に観れば時間は過ぎていきます。
ところが子連れになると、話がまったく変わります。座席は、子どもを寝かせ、おむつを替えに立ち、ぐずったときにあやし、こぼれたジュースを拭く、生活の拠点になるのです。片道13時間前後の北欧路線であれば、その時間はもう「移動」ではなく「滞在」に近い。だからこそ、座席は間取りを選ぶような気持ちで決めるべきものだと考えるようになりました。
そして厄介なことに、この“正解”は子どもの成長とともに移ろっていきます。1歳のときのベストが、3歳のときにはワーストになる。そこが子連れの座席選びの、いちばん難しく、いちばん面白いところでした。
赤ちゃん期の最適解は、バシネット一択
もし子どもがまだ小さくて、バシネットが使えるなら。迷う必要はありません。バシネット一択です。これだけは、経験から断言できます。

バシネットとは、機内の壁に取り付ける赤ちゃん用の簡易ベッドのことです。かごのような形をしていて、そこに赤ちゃんを寝かせられます。海外の航空会社でも「バシネット」で通じますが、不安であれば「ベビーバシネット」と言えば、まず間違いなく伝わります。
何が決定的に違うのか。両手が空くことです。バシネットがない場合、赤ちゃんは膝の上に抱いたまま。食事のときも、寝ているときも、ずっと抱いたままです。10時間を超えるフライトで、腕の中に子どもを抱え続ける——これは想像以上に消耗します。バシネットがあれば、子どもが眠っているあいだ、親も食事をとり、映画を観て、少し眠ることができます。この差は、到着してからの体力にもはっきり表れました。

使える条件は、航空会社ごとに違う
ただし、バシネットには利用条件があります。そしてこの条件が、航空会社ごとに微妙に違うのが厄介なところです。
たとえばANAの場合、年齢の制限はなく、体重10kgまでの赤ちゃんが対象とされています。JALでは2歳未満かつ体重10.5kgまで、そして国際線の機材のみ。大韓航空のように、体重11kg以下に加えて身長75cm以下という条件を設けている会社もあります。数字が少しずつ違うので、「前回の航空会社では使えたから今回も」という思い込みは危険でした。
特に注意したいのが、1歳前後です。体重はクリアしていても、身長制限のある航空会社では引っかかることがあります。搭乗前に、子どもの体重と身長を測っておく。カウンターで体重を尋ねられることもあるので、これは実際に役に立ちました。数字は各社の公式サイトで、予約前に必ず確認してください。

「予約」ではなく「リクエスト」— だから、早く申し込む
もうひとつ、必ず知っておきたいことがあります。バシネットは基本的に無料で使えますが、多くの航空会社で「確約」ではなく「リクエスト」の扱いになっているという点です。
機内に用意されている数には限りがあります。同じ便に赤ちゃん連れが何組も乗っていれば、当然ながら足りません。先に申し込んだ人から埋まっていくので、航空券を予約したら、その日のうちに手続きするくらいの気持ちでちょうどいい。会社によってはウェブから、あるいは電話での連絡が必要になります。
そして、リクエストが通っていても、当日の機材変更などで使えなくなる可能性はゼロではありません。私は必ず、抱っこ紐を機内に持ち込むようにしていました。使えれば最高、使えなくても何とかなる。その構えでいるほうが、当日の心が穏やかでいられます。
バシネット席は最前列。その代わりの制約
バシネットは壁に取り付けるため、席は必然的に各区画の最前列——いわゆるバルクヘッド席になります。この席には、はっきりとした利点と、はっきりとした制約があります。

利点は、まず足元の広さ。前に座席がないので、床にスペースがあり、子どもを立たせたり遊ばせたりできます。そして、前の人がリクライニングを倒してこない。これは子連れにとって、地味ながら本当にありがたい条件でした。テーブルを出したまま、子どもの世話ができるのです。
一方の制約。前の座席がないということは、足元に荷物を置けないということでもあります。離着陸時は、手回り品をすべて頭上の収納棚に入れなければなりません。おむつやおしりふき、着替えを取り出したくても、シートベルトサインが消えるまでは取りに行けない。さらに、テーブルとモニターがアームレストに内蔵されているため、座席の幅がわずかに狭くなります。搭乗前に、必要なものだけをまとめた小さなポーチを手元に用意しておく。これが最前列を選ぶときの必須の備えでした。
2歳を過ぎたら、通路側という新しい正解
バシネットが使えなくなり、子どもの座席を1つ購入するようになると、座席選びの基準はがらりと変わります。ここからは、通路側が新しい正解になりました。
理由は単純で、立つ回数が激増するからです。トイレ、機内の散歩、CAへのお願い、落としたおもちゃの回収。2歳を過ぎた子どもとの10時間は、座っている時間より立っている時間のほうが長いのではないかと思うほどでした。ここで窓側に座っていると、そのたびに隣の人に声をかけて通してもらうことになります。
並び方にもコツがあります。子どもを窓側、大人が通路側。こうすると、子どもが勝手に通路へ出ていくのを親の体で防げますし、窓の外という最大の娯楽も確保できます。3人以上なら、ワイドボディ機の中央ブロックにある3席や4席が理想的でした。両側が通路なので、どちらからでも出入りができます。他の乗客を挟まずに家族だけで固まれるというのは、気疲れの面でも大きな違いがありました。
トイレとギャレーの、ちょうどいい距離
子連れの座席選びで、意外と語られないのがトイレとの距離です。近ければ近いほどいい、というものではありませんでした。
トイレの真横や真ん前の席は、避けたほうが無難です。順番待ちの列が座席のすぐ横にでき、そのたびに人が立ち止まります。ドアの開閉音もありますし、匂いが気になることも。せっかく寝かしつけた子どもが、人の気配で起きてしまうのはつらいものです。

感覚としては、2列から3列ほど離れた位置がちょうどよく感じました。すぐ行けるけれど、列にも音にも巻き込まれない距離です。あわせて確認しておきたいのが、おむつ交換台のあるトイレの位置。機内のすべてのトイレに設置されているわけではないので、搭乗したら早めに場所を把握しておくと、いざというときに慌てずにすみました。
最後方は、意外と“当たり”の席
もうひとつ、子連れにおすすめしたいのが最後方の席です。敬遠されがちな場所ですが、実際に座ってみると利点が多くありました。
まず、後ろに人がいないこと。子どもが座席を蹴ってしまう心配がなく、それだけで気持ちがずいぶん楽になります。混雑していない便であれば、周囲に空席が残りやすいのも最後方。運が良ければ、横並びの席を使って子どもを横にさせてあげられます。ギャレーが近いので、お湯やお水をお願いしやすいのも、ミルクや離乳食の時期にはありがたい点でした。

もちろん、欠点もあります。機体の後方は揺れをやや大きく感じますし、降機のときはいちばん最後になります。列によってはリクライニングが倒せないこともあります。それでも、周囲に気を使い続ける疲労と天秤にかけたとき、私は最後方を選んで後悔したことがありません。
予約直後の10分が、旅のいちばんの準備になる
子連れの座席選びに、あらゆる場面で通用する唯一の正解はありません。子どもの年齢も、性格も、機材も、同行する人数も違うからです。ただ、共通して言えることがひとつあります。予約したあとの10分を、シートマップに使う価値は絶対にある、ということです。

バシネットが使えるならリクエストする。使えないなら通路側を押さえ、トイレとの距離を確認する。それだけで、当日の機内はまるで別物になります。なお、座席指定の可否や料金、バシネットの条件は航空会社や運賃の種類によって異なり、機材変更で座席が変わることもあります。予約前と搭乗前の二回、公式サイトで最新の条件を確認しておくと安心です。
1歳のときは抱っこで泣きどおしだった子も、4歳になれば自分でシートベルトを締め、窓の外の雲を指さすようになります。あの長い時間があったから、その先の景色にたどり着けた。座席という小さな選択が、家族の旅そのものを支えてくれます。次のフライトでは、ぜひシートマップをじっくり眺めてみてください。
